旅の思い出

スペインでの出来事

 旅の記憶で最も印象に残っているのはスペインの空港です。

 観光の仕事でモロッコに行き、その帰りにスペインに滞在したときのことです。滞在が終わり、お客様とマドリッド空港へ向かっていました。すると、あるお客様が突然ロエベのバックを買いたいと言い出しました。それで、「せっかくだから」とお店に寄ることにしました。

 ところが、寄り道したばかりに空港のチェックインの時間に遅れてしまい、オーバブックになっていたため、私たち16名は飛行機に乗れなくなってしまったのです。

 事情を説明すると、お客様たちはみな怒りをあらわにしました。ロエペのバッグを手に入れたお客様でさえ眉間にしわを寄せて「どうするの!」と詰め寄って来ます。

 とにかくなんとかしなくては、

「みなさんが怒るのももっともです。ただ、ちょっと待ってもらえませんか。今から航空会社と交渉しますので、私を責めるのはそれからにしてもらえませんか」

と言うと、みな、そこまで言うならとおさまりました。

 私は航空会社のカウンターまで、ずかずか歩いて行き、バンとカウンターを叩きました。そして、目の前のスタッフの目を見て、

「私どもの『ワールドトラベル』という会社は、世界で一番大きな旅行会社で毎日何百人も送客しているんですよ! そのことをご承知なら、それなりの対応をしていただけますよね」と言いました。

 スタッフは一瞬固まりましたが、すぐにそれがハッタリだと気づき、ぷっと吹き出してその場にいた他のスタッフたちとゲラゲラ笑い出しました。

「OK、OK。それは大変なことをしてしまいましたね。どうすれば許してもらえますか」

 しめたと思った私は、延長した分の宿泊費と滞在費を全部負担してくれるように要求しました。すると、相手は両手を天に向けて仕方がないと受け入れてくれました。

 戻っていって、お客様たちに「宿泊費も滞在費も全部無料」と告げると、みな大喜び。最悪の事態から大逆転で、最高に楽しい旅の思い出となりました。 


ニュージーランドでの出来事


 ニュージーランドを旅行中、こんなトラブルがありました。

 空港から市内観光をした後、昼食を取るため、レストランへ移動することになりました。ビルの前にバスを停め、エレベーターに乗って、レストランのある最上階まで行こうとしたら、なんと途中でエレベーターが止まってしまったのです。もちろんドアも開きません。私たちはエレベーターに閉じ込められてしまいました。

 まさか海外でこんなことが起きるなんて思いもしないので、みんな、「どうしよう、どうしよう」と大慌て。

 ところが、実はそのエレベーターに乗る直前に何か直感が働いて、私はわざわざみんなを待たせて、バスまで引き返し、滞在中の予定が書かれた資料を持って来ていたのです。

 だから、閉じ込められてみんながパニックになっても私だけは冷静でした。警備会社に連絡をして、手元にある資料のレストランの住所と電話番号を読み上げればいいだけでした。

 その後、だいぶ待たされましたが、警備会社のスタッフがきて無事救出されました。

 何か不思議な力によって救われたような経験でした。


南アフリカでの出来事

 南アフリカではまさに絶景と言える素晴らしい景色に出会いました。

 ヨハネスブルグ空港に到着し、ホテルに荷物を置いて、すぐに観光に出かけました。しかし、治安が悪いので観光する際は必ず警備を付けなければなりませんでした。ダイアモンド工場を見学するときも、イギリス人経営者とお付きの方々がわざわざホテルの部屋のドアまで送り迎えをしてくれました。


 このように観光や買い物のときは常に緊張を強いられたのですが、夕方のサファリはヨハネスブルグとはまったく別なアフリカの顔を見せてくれました。

 サファリに行くためには、専用の車に乗り込み、動物が近づいて来てもお客様の安全を守れるようにライフルを持った専門スタッフを同行させる必要がありました。また、動物に刺激を与えてはいけないので、みんな薄い色の服を着なければなりませんでした。

 徐々に日が暮れ、少し涼しくなって、オープンカーの上を風が吹き抜けていきます。物音を立てないようにじっと待っていると、やがて森の中からゾウやキリン、ライオン、ヒョウなどが次々と姿を現しました。

 夕日に染まる空。壮大な自然。のびのびとした動物たち。それらが一体となった光景は胸に迫るものがありました。

 危険と隣り合わせの経験をしてでも見る価値のある、あの美しい景色は今でも私の目に焼き付いています。 


スーザ・ミョータン

スーザ|Thuzar Myo Nyunt